・LOVER—いつもあなたの腕の中—

「あと三分だけ待っててくれ。もう少しで目を通し終わるから」


　副社長は私から離れソファに座り直すと、再び手元の報告書と資料に視線を落とした。


　おいおい、凄い切り替えの早さだなぁ。数秒前まで私をからかっていた時とは、もう違う表情に変わってる。


　今思えば秘書の高田さんに対しての言動と、私に対しての言動は確かに違うものだった気がする。上手く説明は出来ないけれど、私の中の何かが「違う」と感じてしまう。


　そうだ。最初に厳しい言葉を投げられた時は会議中で、周りには大勢の社員達が同席していたんだっけ。その後、残業していた私にジュースを差し入れてくれた時は二人きりだった。
　朝、副社長に駆け寄り挨拶をして無視された時は、芽衣が近くに居て私の様子を眺めていたし。

　思い出してみると、厳しい言動と態度等は周囲に社員がいる時が殆どで。今のように二人きりでいる時の副社長は、むしろ普通に話してくれている。

　どうしてかな。副社長の言動や仕草が自然に見えるほど、私が見たプライベートの西田さんに重なってしまうのだ。
　おかしいことだと分かっているのに、どうしても二人が重なって見える。