・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 ただ。突然抱きしめられたことで、意識してしまったからだけかもしれないし。二人きりで居る時の副社長が「誰にも見せない顔を見せてくれているのかも」と、私が都合よく捉えてしまっているだけなのかもしれないし。
 その答えはハッキリと分からないけれど。副社長のことを知りたいと思ったことは、やっぱり今も変わらない。
 西田さんを好きかもとか、そういう気持ちとは違って。単純に秘密の多い副社長に興味があるから……で。
 でも、興味があるということはイコール「気になる存在」であり「好きになりかけている」とも取れるということでもあるのかも。

 私を見つめ返す副社長の瞳には、上目遣いの自分が映っていて。なんだか、自分が自分ではないような表情を浮かべているのも不思議だし。


「もしかして、誘ってる?」

「え?」

「ここでキスのひとつでもしたら、君は俺に堕ちるだろ」

「何を言ってるんですか、冗談はやめて下さい」


 ムキになった私を楽しむように、副社長は目を細めて笑っているではないか。
 まったく。部下をからかうのもいい加減にしてほしい。ただでさえ自分自身の不思議な気持ちを整理できずにいるのに。