西田さんは私のことを「好きかも」と言ってくれていた。
 あの言葉が本当ならば、もしも私が西田さんのことを本気で好きだと自覚したら、私達は……。


「ないないない! そんなの絶対にないから」


 頭に浮かんだ妄想を消し去るように、慌てて頭上を右手で大きく払いのける。そんな怪しい行動を取る私を見て心配になったのか、即座に芽衣からの誘いが入った。


「優羽、今日は飲みにでも行く?」

「うーん、そうしたいところだけど。今から深山さんに今日打ち合わせをした報告して。帰る前に副社長室にも行かなくちゃいけないんだよね」


「せっかく誘ってもらったのに、ごめん」と両手を合わせ芽衣を拝む私に、芽衣から「そっか、まぁ頑張れ!」と励ましの言葉と共に背中を叩かれたけれど。
「励ます力が強いよ! 力加減を調整してよー」と背中を丸めて痛がる私を見て、大笑いした芽衣だった。


 上司の深山さんには今後のスケジュールなども含め、小道具となる文房具の案も報告書として作成した書類を提出する。
 一連の報告を終えた後は、溜まっていたメール等を確認し重要な案件から返信を済ませ。
 ひと息つく頃、気づけば職場内に人影は無くなっていた。