地面に座り込み頭を抱えていた私の目の前には、黒いキャップを深く被り上下黒い服を着ている男性が、向かい合うような体勢でしゃがみ込んでいた。


「はい、お姉さんのスマホ」


 私がぶつかったのは、どうやらこの男性だったらしい。差し出されたスマホを確認しながらも、目の前に座っている姿から目が離せず見つめてしまう。

 目深に被っているキャップから少し覗いている、透き通るような白い肌。スッとした鼻筋、赤みを帯びた唇。チラッとだけ見えた長いまつげ。

 まるで「男装している女の人なの?」と誤解しそうになるくらい綺麗な人だ。身体の線も細めで中性的に見えるのに、スマホを持つ手は意外と大きくて男らしい。

 そのギャップにドキッとしてしまったから。ぜひとも、その顔面偏差値の高そうな顔をキャップ無しの状態で拝んでみたい。なんて邪な思いが沸き上がる。


 じっくりと見つめてしまっていた私を不信に感じたのか、視線を上げ見つめ返されてしまった。目が合った男性は、私に笑顔を向けながら「派手に割れちゃってるね」と口にするとスマホのディスプレイ部分を軽く人差し指でトントンと叩いた。
 その仕草に導かれるように目を落とすと、ヒビが入ったスマホの無残な姿を目にし思わず大声を上げてしまった。