・LOVER—いつもあなたの腕の中—

　数少ない会議室を使うのなら、予約も取っておかなければいけないし。今日中に済ませなければならない業務ばかりじゃないか。


「うーん、やるかぁ」


　腕を伸ばし、髪をクリップで雑に留め。履いていたパンプスは、デスクの下で脱ぎ捨てる。
　職場でこんなことが出来てしまうのも、職場内は既に誰も居ないからだ。ちょっと勝手なことをしていても、誰に見られる心配も注意されることもない。

　残業時間は、私の自由時間に変わる。
　デスクの引き出しから隠し持っていたお菓子を取り出し、パクッと口に放り込む。
「頭を使うなら、糖分補給も必要だよね？」なんて、都合のいい言い訳をしてパソコンに向かう。


　取引先には会議の日時を知らせるメールを送信し、会議室を仮押さえした。細々としたメールは各店舗からの商品納入の発注依頼や追加、返品連絡。販促品用の雑貨の用意依頼等々。
　倉庫に保管されている在庫数と照合し、各店舗に返信メールを送る。

　一通りの業務を済ませ、残るは今日行われた会議のまとめだ。副社長からの指示、各担当者が挙げたアイデアや要望などをキーボードで打ち込む。

　ある程度纏めることができ、終わりが見えかけた頃。デスクの上にオレンジジュースの缶が静かに置かれた。