・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 暫く西田リュウの事務所と会社との間に立ち、仕事を行うことになってしまった。
「慣れるまで大変だろうけど、頑張ろうね」と西田リュウは前向きな言葉をかけてくれたけれど。
 私には今掛け持ちしている店舗での仕事もあるのだ。

「どう考えても全て中途半端になってしまい、手が回らない気がするのですが」と心配を口にすると。「店舗勤務は、暫く他の社員に担当させるから考えなくていい」なんて、アッサリ解決されてしまった。
 これが鶴の一声ならぬ副社長の一声というものなのか。

 外堀を埋めてしまわれたら、もう観念するしかない。改めて西田リュウに向かい「宜しくお願いします」と一礼すると、そんな私の頭を大きな手が優しく撫でた。


「うん。今日の所は挨拶だけだから、もう仕事に戻って」


 穏やかな声が私を優しく包む。

 どうして、この人の声を聞くだけで落ち着くのだろう。


 不思議な気分のまま顔を上げ副社長に挨拶し。副社長室から退室してドアを閉めた途端、緊張の糸がほぐれたように座り込む。


「……びっくりしたぁ」


 実のところまだ心臓がドキドキしている。こんな形で西田リュウと再会するなど思ってもいなかったし、副社長には初めて会ったし。驚き尽くしの数分間だった。