・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 オールバックに整えた髪に縁の細い眼鏡をかけた、いかにも仕事が出来そうな見た目は。副社長の椅子に座っている姿もサマになっていて、第一印象は「怖そう」の一言に尽きる。


「我が社のイメージキャラクターに彼を起用することが正式に決まった」

「H&T㏇の……ですか?」

「そうだ」


 IT技術の進歩により文房具が使われる機会は以前よりも減っているため、社名を覚え製品を手に取ってもらえる様にと。どのメーカーも著名人を起用することが多くなっていたことは知っている。

 我が社では「吉野文具」から「H&T㏇」へと改名をしたことをきっかけに、デザイン性も進化を遂げ。古き良き特徴はそのままに、より良い製品へと生まれ変わった文房具が若者の支持を得て人気が出て来ていた。

 若者達から注目を浴びている西田リュウなら現在の我が社のイメージにピッタリだと、オファーしたということらしい。


「無事に契約を交わしたんで。今日は挨拶に来たってわけ」

「はぁ、そうなんですか」


 我ながらなんとも気の抜けた返事をしてしまった。だって、そんな話をわざわざ私にする必要ある? 関係ないよね? 第一この場に私が呼ばれた意味が、未だに不明なんですけど。