「あるわけないでしょ、向こうは私のことなんかとっくに忘れてるよ」

「ですよね。ぶつかった挙句、先輩はスマホまで買わせた女ですからね」

「晴海ちゃん!」

「すみませーん」


 ペロッと舌を出し可愛い愛想笑いをすれば、大抵のことは大目に見てもらえることを晴海ちゃんは承知している。彼女の手の内を知っていながら、許してしまう私達もいけないのかもしれないが。
コロッと騙されてしまう男性社員がゴロゴロ居ることの方が問題だと思う。
 やっぱり顔も態度も可愛い女の子って最強だなぁ、とも。

 雑談をしながらランチタイムを過ごしていると、営業部直属の上司である深山さんが食堂に飛び込んで来た。辺りを見渡し私達を見つけるなり大きく手招きするから。
 三人同時に首を傾げると「午後から会議が入ったんだ! 準備手伝ってくれ」と、少し慌てた様子の深山さんが芽衣と私を指名した。


「行ってらっしゃーい」


 受付嬢の晴海ちゃんは人事のようにヒラヒラと手を振り、私達を送り出した。
 芽衣と私は椅子から立ち上がり、慌ててトレーを片付け入り口で足踏みをして待っている深山さんの元へ向かう。


「午後からの会議なら時間的にも余裕ですよね? 資料か何か準備しないといけない案件なんですか?」