「優羽」


 たった一言、名前を呼ばれただけなのに。その声に反応するように瞳からは涙が溢れた。

 悟られたくなくて鼻をすすってしまった私を、腕の中で反転させた隆好。向かい合い抱きしめられた私は、その胸に顔を埋めて隆好の背中に腕を回していた。


「ずっと連絡しなくてごめん。こんな形で知らせることになって、ごめん」


 耳元で囁くように告げられ、隆好の腕の中で左右に首を振る。そんな答え方しかできない自分が情けない。


「優羽の顔を見たら自分の意思が揺らいでしまいそうで怖くて。今日まで言えなかった」

「……でも、決めたんでしょう?」

「ん」


 これから待っているのは『別れ』だと分かっているのに。もう、誰にも止めることは出来ないんだ。

 用意されていた航空券は一枚、隆好の分だけだった。私の顔を見たら、気持ちが揺らぐというのは嘘ではないのだろう。

 だからこそ、今。本気で「行かないで」と願い口にしてしまったら。
 きっと隆好はニューヨーク行きを止めてしまうかもしれない。

 解かれた身体を少し離し。久しぶりに近くで見つめた隆好の瞳の中に寂しげな表情の私を見つけた。