・LOVER—いつもあなたの腕の中—

　西田リュウは私の手からスマホを引き抜き、ディスプレイをタップし始めた。「はい」と返され、それを受け取るとスマホには知らない番号が表示されていて。しかも『発信中』になっているではないか。


「ちょっと、何処にかけて……」


　言いかけた私の言葉を遮るように近くで着信音が鳴り始めた。
「お、鳴った」と呟きポケットから取り出したのは、さっき彼が弄っていたスマホだ。通話ボタンを押し着信音が鳴り止むと「本体もハズレ品じゃないみたいだね」などと言って、自分のスマホをポケットに戻した。


「じゃあね、真島優羽さん。今度から電話しながら歩かないようにね」

「ちょっと待って！」


　軽く手を上げ立ち去ろうとしていた彼を咄嗟に呼び止めてしまったから。背を向けかけていた彼は立ち止まり、振り返ると向かい合わせになった私を見下ろし首を傾げた。


「まだなにか？」

「どうして私の名前を知ってるの？　何処かで会ったことある？」


　キャップ越しに顔を覗き込んできた西田リュウは、私の不思議そうな表情を確認するなり「プッ」と噴き出すから。ムスッとむくれ顔をした私を見て更に笑い出したのだ。


「ごめんごめん、そんなに気にすることだった？」