・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 ただそこに居るだけなのだが。背景にはビル群の夜景や道路を行き交う車のライトと、彼の前を通り過ぎる歩行者が右往左往と流れているだけだというのに。
 まるでそこだけシャッターを切った別世界のように見えてしまうほど、彼の姿が素敵に見えた。
 見とれてしまっていた私にかまうこと無く親し気に手招きをしたりするから、わけも無く鼓動が跳ねてしまう。


「はい、同じ機種があってよかったね」


 手渡された紙袋には、ヒビの入ったスマホと新しいスマホが仲良く並んで入っていた。中を覗きながら「こんなに簡単に受け取ってしまって本当にいいのだろうか。お礼の言葉しか言えない私は、どうしたら……」と考え込む。けれど、どんなに考えてもなにも浮かばないなんて。


「ちゃんと使えるか確認してみたら?」

「え?」

「きちんと機種変出来てなかったら、それこそ明日から使い物にならないでしょ?」

「そっか」


 紙袋から新しいスマホを取り出し、まず電話帳を開いてみる。会社や取引先、お得意様に数少ない友人の名前が表示された。


「大丈夫みたいです、ちゃんとデータの引継ぎも出来てます」

「じゃあさ、試しに鳴らしてみ」