・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 歩いて来た廊下を玄関に向かい戻っているけれど、一向に辿り着けないのは。それほど奥座敷だったからであり、決して迷子になったわけではないのだけれど。

「酒の席だったのだから」と言い聞かせ分かっているつもりなのに、少し前の出来事を思い出してしまう。
 忘れたくても暫く忘れられそうにない、太腿に残った嫌な感触がゾワゾワして鳥肌が立つ。


「悪かった、こんな席に連れて来て」

「……そうですよ! 酷いですっ」


 素直に謝ってくれた副社長の背中に向かい、責めた私は悔しさと悲しさから場所も考えずに泣き出し廊下にしゃがみ込む。


 廊下の隅で身体を丸め泣いている私は「ごめん」と繰り返すだけの副社長に、コートで隠すように包み込まれた。
 副社長に優しくされていることをいいことに、その胸に向かい拳を数回当てる。私の拳をもれなく受け止めてくれている副社長から、リュウと同じ香りがしたりするから。
 また錯覚し「リュウ」と口走ってしまったけれど、そんな私に副社長は何も言わなかった。


「酔っ払い相手なんだから、適当に逃げろよ」

「だって。親睦会なのに私が逃げたりしたら今後の仕事にも影響するかも、って思うと……」