・LOVER—いつもあなたの腕の中—

「確かにぶつかって来たのはそっちだけど、俺も避けきれなかったのは事実だし。半分は俺のせいでもあるってことで、弁償するよ」

「やっぱりいいです!」


 自分で払うと断り男性に背を向ける。背中には男性の視線を受けているのを感じるけれど。この人が誰なのか気づいてしまったら、もう直視することが出来なくなってしまった。


「どうして?」

「だって」


 背を向けたまま口を噤んでいる背後から顔を覗き込まれ「だって、なに?」と座っていた回転椅子を簡単にクルッと回されてしまい、お互いの膝がコツンと触れた。


「さっきまで、どうしてくれるんだ! 払えない! とか言ってたくせに。なんで急に態度まで変わって黙り込むわけ?」

「だっ……て」


 私、あなたのことを知ってる。きっと対応してくれている、ここの女性店員さんだって顔を見れば気付くと思う。


「あなた……西田リュウ、でしょ?」


 店員が席を外した隙を見計らい思い切って視線を合わせ。膝が微かに触れたままの状態で向かい合っている男性を前に、直球で尋ねた。


 この人は何と答えるのだろう。はぐらかす? 否定する? 誤魔化す?
 普通なら、しらばっくれる……よね。