・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 見たところ平日の夜にスーツも着ていないから、会社帰りのサラリーマンでもなさそうだし。もしかして、ヤバイ人に喧嘩を売ってしまったのかもしれない、と不安になる。

 店内の明るい照明の下、改めて男性の姿を眺めてみると。やはり目深に被ったキャップが邪魔だが、さっき見た時よりも少しだけ表情が確認できるようになった。


 見れば見るほど男性の顔に見覚えがあるような気がしているのは、気のせいなのだろうか。
 何処かで見た様な気がするのだけれど、思い出せない。それとも知り合いの誰かに似ているだけなのかな……。


 私の不注意でぶつかりスマホを壊したのは自己責任で、最初はこの人もそう主張したはずなのに。こうしてショップに連れて来てくれたりして、私を助けてくれるのだから「そんなに悪い人じゃないんだろうな」なんて思えてしまう。


 困っている私を即座に助けてくれたのは嬉しいし有難い。けれど、これだけは言っておかなくちゃ。


 黙ってスマホを操作していた男性を覗き込むように、恐る恐る声をかける。


「……あのぉ」

「なに?」

「私、まだこっちの返済が済んでないし、買い替えられるほど余裕ないから」