・LOVER—いつもあなたの腕の中—

 不安をよそに男性に連れられ入店したのはモバイルショップだった。「いらっしゃいませ」と店員から声をかけられた男性は「これと同じ物を」と、私が手にしていたスマホを店員に見せ短く告げると、勧められたカウンター席の椅子に座った。隣りの椅子を引かれ、有無を言わさず座るように促され腰を下ろす。


 えっと。さっきの状況からの「行こうか」と誘ってきたのは、私をどこかに連れ込みキスの続きをするのが目的とかではなくて。壊れたスマホを交換するために「ショップに行こうか」ってことだったのか。
 手を引かれながら何処に連れて行かれるのか動揺していた私って、完全に勘違いのバカ女じゃん。


 第一、抱きしめたことも頬にキスしたことも、完全になかったことにされている状況なわけで。あれは「事故」だったから謝られる必要もないし、なかったことで構わないんだけど。
 それでいいんだけどさ。なんか腑に落ちないというか、納得いかないというか。胸の奥がモヤモヤしている気がしてならない。


 カウンター越しに機種変更の手続きを始めた店員を前に、チラッと横目で隣に座っている男性に目を向ける。椅子に座ってから一言も口を開こうとしない男性は、さっきから自分のスマホを片手に画面をスクロールしていた。