学校へ行くにはスクランブル交差点を通らなければならない。空が俯く顔を一瞬上げれば、多くの人が信号が青に変わるのを待っている。

交差点の向こう側にいる人の名前も、どんな仕事をしているのかも、空は知らない。しかし、それは相手も同じだ。烏合の衆は互いの存在を知らない。まるで透明人間のように扱う。

信号が青に変わり、皆が歩き出す。空も歩かなくてはならない。透明人間とはいえ、そこにいるのだから。立ち止まっていては迷惑である。

「……行きたくないな……」

現実から目を背けるよう、空はかばんの中からイヤホンを取り出す。絡まったイヤホンを解いて耳に挿し、音楽を流してただ現実から目を背ける。

「本当に消えることができたらいいのに……」

逃げられない学校という地獄へと空は足を踏み入れた。



学校に空が一歩でも入ると、冷たい視線があちこちから突き刺さる。そして下駄箱を除けば、空の上履きはゴミだらけにされていた。

「やだ〜、汚い……」

「アイツ、二組の鈴木らに目ぇつけられてるらしいぜ」