「きのうはどうもごちそうさまでした…」
こちらへ近づいて来た彼女に私は会釈をした。
「どうしたの…?こんな寒いのに上着も着ないで…」
恭平さんのお母さんが驚いたように言った。
「ああ…」
そういえば私、何も羽織らず出てきちゃったんだ…。
「えと…、これはですね…」
適当にわけを話そうとすると、恭平さんのお母さんは自分が着ていたコートを脱ぎ始めた。
「こんなんで悪いけど、あったかいから着てなさい」
「え…?」
私の前に厚手のコートが広げられた。
「おばちゃん用デザインだけど、何も着ないよりはマシでしょ…?」
そう言って無理矢理袖を通させたお母さんの笑顔は、やっぱり私の心に沁みた。

