記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される

「あとから知った話、20人近い人がけがをして、5人が亡くなった。男たちは近くにいた人を切りつけて、最終的にガソリンを頭からかぶって、焼身自殺した。」
想像を絶する話に、少し体が震える。

「大丈夫?」
紫苑が私の肩に触れ、顔を覗き込む。
彼に頷くと、紫苑は再び話を始めた。

「俺たちは地下鉄のホームにいて、犯人たちからは少し離れた場所にいたんだ。どんどんと人が逃げて、ホームから出ようとしてた。その時、人ごみに倒れている桐乃を見つけたんだ。」
「・・・」
「俺もホームから出ようとしていて、人の流れに乗りながら桐乃を起こして、手をひいて逃げた。必死すぎて、桐乃の手を離すことも考えてなかった。誰もがパニック状態で、詳しい状況が分からないまま、とにかくホームから出ようとしてた。」
思い出そうとしても思い出せない。
でもきっとものすごく悲惨な状況だったのだろうと想像がつく。