どうせ休み時間に会えるんだから、と柚李に慰められたこともあったなと苦笑を零した。
「…あ」
早くも柚李が恋しくなりながら、辿り着いた教室の扉に手を掛ける。一歩入って直ぐ、珍しい光景に思わず立ち止まった。
目を見開いた先に居るのは、机に伏せて寝息を立てる一人の男子生徒。
「……今日は来たんだ」
開いた窓から漏れる風が、その男子生徒の黒髪を柔らかく揺らす。ボソッと零れた俺の声で目覚めてしまったのか、そいつは小さく反応した数秒後にゆっくりと顔を上げた。
のそりと上半身を起こして、焦点の合わない視線をボーッと正面に移す。ようやく気配に気が付いたのか、光の無い真っ黒なその瞳が、今度は俺の方に向けられた。
「……」
「……」
お互いに見つめ合うこと数秒。ハッと我に返って、床に縫い付けられていた足をそそくさと動かす。
気まずいからさっさと視界の外に…と思ったが、そういえば自分の席がこいつの隣だったことを思い出して項垂れた。
無言で席に向かい、ガタガタと音を立てて引いた椅子に腰を下ろす。流石にこんな近くに座ってるクラスメイトを無視して座るのは失礼か…と思い直して、わざとらしく咳払いを零した。
「あー…おはよう、芹崎」
隣の席のクラスメイト…芹崎獅貴は、俺の挨拶に返事をすることなく、また無言で机に伏せた。