「…否定はしないんですね」


「ッ…うるっせぇ!」



冷静にそう言う未星くんに、禅くんは捨て台詞の如く吐き捨てて足早に教室を出て行った。閉じられた扉がバンッと音を立てる。荒々しい足音は、距離が大分離れた後も微かにきこえていた。


数秒沈黙が広がった後、チラリと時計を一瞥した律が「…そろそろ戻る」と行って踵を返す。慌ててまたねと声を掛けると、顔だけ振り向いた律がふわっと微笑んで片手を振った。



「…ねむい」


「ここで寝ないで下さい。ほら席行きますよ」



母親…?とツッコミそうになるがぐっと堪える。未星くんのお母さん属性も相変わらずのようだ。


未星くんに若干支えられるように席に向かった陽葵は、辿り着くなりでろんと机の表面に上半身をうつ伏せに委ね寝息を立て始めた。それを微笑を浮かべて見守り、そっと顔を伏せる。



「…紫苑?どうした、具合悪いのか…?」



途端におろおろし出した獅貴を、苦笑して宥めて「何でもないんだけどね…」と言葉を濁した。案の定続きを促してきた獅貴から目を逸らして、涼くんの机に視線を向ける。



「涼くん…大丈夫かなぁ」



さっきは何でもないように見送ったけど、本音のところ違和感は拭えない。きっと皆気付いていただろうけど、それを言葉にしなかっただけで。