振り返れば、まだ左右七さんと寿太郎さんが刀を握りしめたまま固まっていた。
「七さん、寿太郎さん。波です!」
私が言い放つと、二人がすぐに顔を見合わせる。
「波?」
「そうですよ、ぼーっとしている場合じゃないですって。波を……波を出してください!!」
掴みかからんばかりに二人に詰め寄ると、先に我に帰ったのは左右七さんだった。
「波……そうか」
「ああ、そうですね!」
寿太郎さんも私の言わんとしていることが分かったらしい。
既に用意されていた波に見立てた青い布を掴んで、二人が舞台袖に散る。
「あ、日向子!」
お母さんが声を上げたのにも構わず、私は刀を掴んで迫りの下へと潜り込んだ。
左右七さんは舞台裏から別の袖に向かい、もう一方の布の端をしっかりと握りしめる。双方で準備ができると、舞台上にヒラヒラと青い布地が閃いた。
「あれ、あのように大きな波が」
私たちの意図に気づいて、やはり真っ先に声を上げたのは左右之助さんだった。こんな時に大波が襲うなんて、神や仏の思し召しかと場をさらにつないでくれる。
波で迫りが隠れると、大道具さんが機構を使って私を舞台上に上げてくれた。しっかりと握りしめた刀を、波間から舞台に滑り込ませる。青で満たされた視界の隙間から、左右之助さんと目が合った。
ああ、波に流されていた刀がどこからか戻ってきた──そんな千鳥の絶望した声が舞台を満たす。
それを受けて、鴛桜師匠演じる俊寛が、流されてきたと見立てた刀を掴んで──
あとは、いつもの流れだった。
俊寛が瀬尾を刺し殺す。
客席が、怖いほどの沈黙で満たされた。
お客様は──こんないつもと違う進行になってしまったクライマックスを、どう受け止めてくれたのだろうか。
どうにかいつもの流れに戻して舞台は進み、お客様の反応がわからないまま……私たちは処刑台に登るような気持ちで終演を待つしかなかった。
「七さん、寿太郎さん。波です!」
私が言い放つと、二人がすぐに顔を見合わせる。
「波?」
「そうですよ、ぼーっとしている場合じゃないですって。波を……波を出してください!!」
掴みかからんばかりに二人に詰め寄ると、先に我に帰ったのは左右七さんだった。
「波……そうか」
「ああ、そうですね!」
寿太郎さんも私の言わんとしていることが分かったらしい。
既に用意されていた波に見立てた青い布を掴んで、二人が舞台袖に散る。
「あ、日向子!」
お母さんが声を上げたのにも構わず、私は刀を掴んで迫りの下へと潜り込んだ。
左右七さんは舞台裏から別の袖に向かい、もう一方の布の端をしっかりと握りしめる。双方で準備ができると、舞台上にヒラヒラと青い布地が閃いた。
「あれ、あのように大きな波が」
私たちの意図に気づいて、やはり真っ先に声を上げたのは左右之助さんだった。こんな時に大波が襲うなんて、神や仏の思し召しかと場をさらにつないでくれる。
波で迫りが隠れると、大道具さんが機構を使って私を舞台上に上げてくれた。しっかりと握りしめた刀を、波間から舞台に滑り込ませる。青で満たされた視界の隙間から、左右之助さんと目が合った。
ああ、波に流されていた刀がどこからか戻ってきた──そんな千鳥の絶望した声が舞台を満たす。
それを受けて、鴛桜師匠演じる俊寛が、流されてきたと見立てた刀を掴んで──
あとは、いつもの流れだった。
俊寛が瀬尾を刺し殺す。
客席が、怖いほどの沈黙で満たされた。
お客様は──こんないつもと違う進行になってしまったクライマックスを、どう受け止めてくれたのだろうか。
どうにかいつもの流れに戻して舞台は進み、お客様の反応がわからないまま……私たちは処刑台に登るような気持ちで終演を待つしかなかった。
