片口君……!
私は片口君を駅前で見つけて手をあげて合図した。

片口鰯と私は、付き合っている。
駅をはさんだ両極に学校がある私たち。
駅で待ち合わせて
「進路希望の紙、なんて書いた?」

「煮干し」

なんてささやかな会話をしながら一緒に登下校する。人と人しか付き合っちゃいけないという風潮がある昨今だが、私は気にしていない。

だって、想い合っているんだよ?
こんなにも幸せなんだ。それなのに、片口鰯だからなんなのだろう……

「ごめん、揺れるよね」

私は水槽を抱えてあるく。
ちゃぷちゃぷと、波打つ中で、片口君は全然余裕そうにしてる。

「別に、大したことないよ」
カッコつけちゃって。
なんだか涙が出そうになる。

手を繋いで歩けなくても、抱き締めてもらえなくても私、こうやって今話をするだけで充分なんだ。