「イヤッ!」

 錯乱(さくらん)するあまり修太郎(しゅうたろう)さんの手を()()けてしまった私に、彼は「日織(ひおり)さん、お願いですから僕の方を見てください」と切なげな声をお出しになった。

 途端、あんなにぐちゃぐちゃだった頭が瞬時に修太郎さんを認識して……私の世界は彼一色に染まる。
 そんな修太郎さんのことを、私は……すごくすごくズルイ、と思った。

 なんだかんだ言っても、私は大好きな修太郎さんのお願いには逆らえないのだから。

 すごすごと視線を上げて、恐る恐る彼の目を見つめたら、修太郎さんがもう一度、「本当にごめんなさい」と謝っていらっしゃった。

「……私の気持ちを無視して強引なことをなさるだなんて。……修太郎さんは……とても……意地悪、です」

 私はやっとの思いで修太郎さんにそれだけを言うと、ギュッと(てのひら)を握りこむ。