「戻りました」

 修太郎(しゅうたろう)さんのお顔から目をそらさずにそう言うと、彼は一瞬驚いた顔をなさった。

「更衣室で何かありましたか?」

 小声で問いかけていらっしゃるのへ、「中本さんにしっかりしなさいって背中を押していただきました」と答える。

「そうですか」

 ふっと柔らかく相好(そうごう)を崩されたのを見てホッとして、「あと、折につけ高橋さんからも沢山ためになるアドバイスをいただいていたので……」と続けると、途端修太郎さんの表情が厳しいものに変わる。

「彼にも?」

 ほんの少し声音も低く、不機嫌さをにじませた印象で。

「しゅ……塚田(つかだ)さん……?」

 思わず恐る恐る呼び掛けたら、「会議室に移動しましょう」と、おもむろに立ち上がった彼から、険しい顔で別室への移動を(うなが)されてしまう。

 私は彼の豹変(ひょうへん)ぶりが理解できなくて、ただただ戸惑った。

 それでも「はい」と答えて後に続いてしまったのは、修太郎さんのことが好きで好きでたまらないから。
 どんなに怖いオーラをまとっておられても、私は彼に()かれずにはいられない。