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 中本さんに叱咤激励(しったげきれい)されて、私は自分の在り方を(かえり)みる。

 これまでの私は、確かに両親や神崎家(かんざきけ)の望む自分であろうと無理をしてきた気がする。

 いくらお父様の恩人のご子息だからって……物心ついてから一度もお会いしたことのない健二(けんじ)さんに義理だてする必要なんてなかったはずなのに。
 そんなことにすら、先般(せんぱん)高橋さんに指摘されるまで私は気づいていなかった。

(どうして私、今まで自分の境遇に何の疑問も覚えずにのほほんと暮らしてこられたのでしょう!)

 私は、古往今来(こおうこんらい)本当に何にも知らないカゴの中の鳥だったのかもしれない。