「本当は……」

 一旦まぶたを閉じて思案なさるような素振りを見せられたあと、私の頬を優しく撫でながら、どこか苦しそうに修太郎(しゅうたろう)さんが声を(つむ)がれる。

「本当は……このままキミを僕のものにしてしまいたいところなんですが……それではきっと、日織(ひおり)さんを困らせてしまいますね」

 貴女の性格を思うと、それはあまりにも酷だ、と小さくつぶやいてから、修太郎さんは切なげな呼気を(ともな)って、私の身体から離れられた。

「……修、太郎、さん?」

(彼の求めに応じ切れなかったから呆れられてしまったの?)

 突然私の上から身体を起こしてしまわれた修太郎さんを見て、突き放されたように感じてしまった私は、途端、胸が苦しくなる。

 それでも心の片隅で、健二(けんじ)さんとのことに何の解決も出さないままに修太郎さんと最後まで進まなくてよかった、と思う自分がいたのも確かで。

「日織さん。今、貴女はきっと、許婚(いいなずけ)のことを考えておられるでしょう?」

 私をベッドから抱き起こしながら、修太郎さんが話のついでのようにそう切り出していらした。その言葉の内容に、私は思わず身体を固くした。

「……え?」

 修太郎さんの言葉が信じられなくて、反射的に彼のお顔を見ると、

「……神崎(かんざき)健二(けんじ)

 修太郎さんは、私を真っ直ぐに見据えて健二さんのフルネームを告げられた。

「……何故……修太郎さんが健二さんのお名前を?」

 余りに驚いて、言下(げんか)にそう問いかけると、刹那(せつな)修太郎さんは少し困ったようなお顔をなさってから、

「少なからぬご縁があって、僕は彼のことを存じ上げています。日織さんのことも……実は健二から頼まれていました」

 とおっしゃった。