あなたに、キスのその先を。

 なのに。

日織(ひおり)さん、すごく可愛いです……」

 修太朗さんが意地悪く私の耳許(みみもと)に、吐息まじりの声音を吹き込んでいらしっしゃるから。

「あ、んっ……」

 その声にさえ修太郎さんの男らしさを感じて身体がビクッと反応して、誘うような声が口をついてしまった。

 同時に下の方からクチュッと小さく濡れた音がした気がして。
 私はその音を修太郎さんに聞かれてしまったのではないかとドキドキしてしまう。

 なるべく足を動かさないようにしないといけないのですっ、と思うのに、意思に反して修太郎さんの一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)はおろか、その呼気にさえも全身が敏感に反応してしまって……身体がモジモジと動いたりしたから。

 そのせいできっと、修太朗さんに勘付かれてしまったのだ――。


「日織さんは見かけによらず、とても敏感でいらっしゃる」

 うっとりしたように、修太郎さんがつぶやいていらしたのだから。

 私はそれが恥ずかしいことにしか思えなくて、思わず「ごめ、なさい……」と小さく謝罪する。

 すると、修太郎さんがきょとんとした顔をなさって、
「どうして謝るんですか?」
 と問いかけていらして。

 私は思わず「……え?」ともらしていた。

 私は品位に欠けることは良くないことだとずっと思っていたから。女性の身でありながら、些細(ささい)なことにいちいち敏感に反応してしまうなんて……言語道断だ、と。

「……はした……ない、ので」

 少しずつ、あやしかった呂律(ろれつ)も元に戻りつつあって……それが逆にクリアになってくる思考と相まって、恥ずかしさに拍車をかける。

 伏し目がちにゴニョゴニョと小声でそう言ったら、途端、クスッと笑われた。