あなたに、キスのその先を。

 必死にその原因を探ろうと意識を集中させていたら、どういうわけか段々胸が高鳴って苦しくなってしまう。
 そのせいでなかなか整わない呼吸がもどかしくて、私は慌てて彼から視線をそらした。

日織(ひおり)さん、今までキスをしたご経験は?」

 そんな私を黙って見つめておられた塚田(つかだ)さんが、唐突にそう問いかけていらっしゃる。

 キスの経験なんて……あるわけ、ない。

 聞かれて、せっかくリズムを取り戻しかけていた鼓動を再度大きく乱された私は、真っ赤になってうつむく。

 その反応で、応えは(いな)だと判断なさったのだろう。

 塚田さんは無言で立ち上がると、くるりと私に背を向けた。

(きっと……キスひとつもまともに出来ない子供っぽい女の子だと思われてしまったに違いないのです……)

 私は、悲しくて泣きたくなった。