「つ、塚田(つかりゃ)さん……?」

 互いの吐息が混ざり合いそうなほどの至近距離、熱のこもった視線でじっと絡め取られて、私は彼の熱に当てられたように目端(めはし)(うる)んでくるのを感じた。

「どうか……修太郎(しゅうたろう)、と」

 そう言われた時にはお互いの唇が触れ合いそうに近くて。

 眼鏡を外して、ソファについた方の手に握りながら告げられた、塚田さんの懇願(こんがん)するような声音。私はその声と視線に、半ば操られるように「しゅー、たろ、さん……」と口にしてしまっていた。

 そのことが余りに照れくさくて、恥ずかしさから逃げるように、思わずギュッと目をつぶる。

 許婚(いいなずけ)のある身でありながら、未来の夫以外の異性の名を呼んで照れてしまうなんて、私は貞淑(ていしゅく)な妻失格だ。

 こんなことでは、健二(けんじ)さんから婚約破棄を言い渡されても仕方がない、と思った。

 いや、むしろそうなってくれたなら。

 そんなことを思い描いてしまう自分が凄く怖かった。
 でも、心の片隅で、このまま塚田さんとどうにかなってしまえたら、とも願ってしまって――。