あなたに、キスのその先を。

 塚田(つかだ)さんに導かれるまま、私はお店をあとにした。

「この時間帯は大通りを流してる()が結構いるはずだから」

 そう仰った塚田さんに支えられてアーケードをほんの少し歩くと、すぐに国道に面した通りへ出た。
 と、程なくして塚田さんの言葉通り、一台のタクシーが捕まる。
 ドアが開くと同時に、塚田さんに支えられて、後部シートに乗り込んだ。
 席へ落ち着いてすぐ、コツン……とガラス窓に頭をもたせかけた私に気付いた塚田さんが、私の頭をそっと抱えて自分の方へ抱き寄せてくださる。

「走っている間、僕に寄りかかってしばらく眠るといい」
 言われて優しく頭を撫でられたけれど、初めてのシチュエーションの連続に、ドキドキが激しくなるばかりで――。

健二(けんじ)さん、ごめんなさい。せめて今夜だけは……夢を見させてください)

 ぼんやりした頭の中に、少しだけ芽生えた許婚(いいなずけ)への罪悪感。

 でもそれも、大好きな人の温もりが近くに感じられる嬉しさには敵わなくて、私は塚田さんに誘われるまま、素直に彼に身体を預けてうっとりとまぶたを閉じてしまう。

 そうしながら、ぼんやりと、お手洗いに行きたかったことを思い出したけれど、塚田さんにそんな恥ずかしいことを伝えられようはずもなく――。
 いよいよ限界になったら……その時に考えよう。

 お酒のためかな。いつもならもっとソワソワしてしまうようなことのはずなのに、悠長にそう思ってしまった。