あなたに、キスのその先を。

 林さんたちにここのお支払いのことや、何ならお二人の二次会への出資のことなんかを提示し終えた塚田(つかだ)さんが、現実の世界(あちら側)から夢の世界(こちら側)へ戻っていらっしゃる。

 そうしてすぐに私の耳元に唇を寄せると、「藤原(ふじわら)さん、僕は今から貴女の身体に触れます。いいですね?」と小声でささやいた。

 いつもより低められた塚田さんの声に耳をとろかされながら、私はこくん、とうなずく。

 直後、私は塚田さんに椅子から抱え起こされていた。

 塚田さんの端正な横顔がすぐ間近にきて、私はドキドキと胸が高鳴るのを(おさ)えられなくなる。
 真横から見ると、眼鏡のレンズ越しではない彼の瞳が透かし見えるのが、また特別な感じがして一際(ひときわ)激しくときめいてしまう。

 動悸(どうき)があまりに苦しくて、思わずうるさく脈打つ胸元に手を()えた。

(気持ちを外に出さないから、こんなにも心臓が暴れてしまうに違いないのですっ)

 ぼんやりとそんなことを思う。