「も、修太郎(しゅうたろう)さ、んっ、全っ、然……情、緒ないですっ、その分析……っ」

 クスクス笑う私を、戸惑ったように見つめていらっしゃる彼が愛しくて。

 私は布団が落ちないように片手で胸元を押さえながら身体を起こすと、修太郎さんのTシャツを軽く引っ張ります。

 引かれるままに私の方へ身体を寄せていらした修太郎さんの頭をそっと抱えてお顔を自分の方へ引き寄せると、私は彼の唇についばむような軽い口づけを落としました。

 それから間近で彼を見つめながら、「そ、いうとこ、も含めて、全部、全部……愛しく、て堪……りませんっ」と伝えます。

「ひ、日織(ひおり)さん……っ」
 私からの不意打ちに、真っ赤になられる修太郎さんに、私は初めて「大好き」以外の言葉を投げかけました。

「修、太郎さん、(つか)()日織(ひおり)は、夫の、塚田……修太、郎を心、の底から()()()、います――」

 今度、声がちゃんと出るときにもう一度お伝えし直そうと思います。

 でも、それはそれとして――今、どうしても、私はそのことをお伝えしたかったのですっ!

 大好きな修太郎さんと、名実ともにひとつになれた日。
 私はこの日のことを絶対に忘れません。

 あ、忘れないと言えばもうひとつ。

 入籍のあの日以来、私は印鑑を持ち歩くのを常としました。

 勝手な思い込みですが、印鑑と身分証明証は大人の(たしな)みなのですっ。

 まだまだ頼りない妻ですが、少しずつ少しずつ修太郎さんを支えられる女性になれるよう、日々精進していこうと思います。

          END
   (2019/09/20ー2020/02/19)
    全年齢向け版改稿完了/2020/04/18