***

 お風呂に入った折に、当然のように歯磨きも済ませた私は、パジャマに身を包んでリビングに戻ります。

「お先でした」
 先ほどと変わらぬ様子でソファに腰掛けていらっしゃる修太郎さんにそうお声をかけると、見ていらしたスマートフォンの画面から目を上げて、淡く微笑まれました。

 先ほど外していらしたはずの眼鏡は、画面を見る必要があったからか、かけ直していらしてて。修太郎さんは再度それを外してご自身のスマートフォンとともに私の赤い機種の横に置かれると、立ち上がられました。

 私は、リビングの入り口を入ってすぐのところに立ち尽くして、ただただ、そんな修太郎さんの一連の所作に、ボーッと見入ってしまっていました。

 修太郎さんは私のそばまで歩いていらっしゃると、通り過ぎる寸前に腰をすっと屈《かが》めていらして、私の耳元に小さな声でささやいていらっしゃいます。

日織(ひおり)、すぐに行きますので、寝室で待っていて?」

 修太郎さんの、熱をはらんだような甘く低い声音に、私の胸はドキンッと高鳴りました。