「――日織(ひおり)さん」

 考え事をしていたら、修太郎(しゅうたろう)さんが切なく(かす)れた声で私の名前を呼んでいらして。

 再度唇が寄せられたのを察知して私は慌てます。

「しゅ、修太郎さんっ。お、お風呂っ。つ、続きはお風呂に入ってからに……しませんか?」

 あちこち歩き回りましたし、色々気になってしまいます。
 この()に及んで今更な気も致しますが、歯磨きも済ませたいのですっ。

「――ダメ、ですか?」

 下から見上げるように上目遣いでそうお伺いしたら、修太郎さんが寸の間考えていらして……。
「どうしても、とおっしゃるのでしたら」
 と言ってくださいました。

 私は畳み掛けるように「どうしても、ですっ」とお応えします。

 修太郎さんは、はぁっと切なげな吐息を漏らされると、「わかりました」と言って引いてくださいました。

 私はホッと安堵します。

「御一緒に、と申し上げたいところですが、それはまだハードルが高いでしょう?」

 修太郎さんが私の方を仰ぎ見ていらして、私はそのセリフに何度も何度も(うなず)きます。

 私のその様子に修太郎さんがふっと相好(そうごう)を崩されると、
「実際僕自身も、貴女とお風呂に入って、我慢できる自信がありませんので今日のところは諦めます。――僕は少しやることがありますので、日織さん、お先にどうぞ」

 修太郎さんにそう言われて、私は再度胸を撫で下ろしました。