日織(ひおり)さんの唇はいつも桃の香りです」

 私がそうなっては困ると思ったことを、さらりとおっしゃると、修太郎(しゅうたろう)さんが微笑んでいらっしゃいます。

「日織さんが真面目な方だと言うのは存じていましたが……お一人であんなお勉強をなさっていらしたのは、正直驚きです」

 修太郎さんがこんなことをわざわざおっしゃるのは、きっといつもの意地悪なのですっ。

 私は修太郎さんをじっと見詰め返して、
「わ、私だってやるときはやるのですっ!」
 わけのわからない虚勢を張ってしまいました。

「僕の奥さんは本当に頼もしいですね。今日もファミレスで僕を庇ってくださったとき、すごくかっこよかったです」

 ぎゅっと私を抱きしめて、修太郎さんが耳朶(じだ)に直接吹き込むようにそうおっしゃいます。

「あ、あれは……。いらないことまで言ってしまったと……反省して、いますっ……」

 健二(けんじ)さんと佳穂(かほ)さんに、私はエッチ未経験者ですって公言した感じになってしまったのを、ふと思い出して赤面します。

 でもあれは私自身のことは告白してしまいましたが、修太郎さんのことは分からなかったと思うので、その点ではセーフです。