あなたに、キスのその先を。

 私は……修太郎(しゅうたろう)さんのおっしゃるがままに署名捺印など済ませてしまいましたが、それは普通ではないこと……だったのでしょうか?

 そもそも……私はあの時、びっくりしただけで、本当に何で?って思わな……かった?

 頭が混乱して、よく思い出せません。

 ただ、ひとつだけよく覚えていることがあるとすれば。
 あの時、修太郎さんが、その日は私と彼が始めて出会った記念日だから、とおっしゃって。私、それに舞い上がってしまったんです……。

 それで、入籍がどういうものなのか、しっかり考えずに動いてしまった気がします。

日織(ひおり)さん、仮にも入籍ですよ? 法的に貴女の戸籍が変わってしまう大きな手続きです。その事実は一生貴女に付きまとうって分かりますよね? それを……いくら好きな男が相手だからって……言われるがままに処理してしまうのは……よくないことだと分からないほど、貴女は愚かな人じゃないと思ってたんですが?」

 買いかぶり過ぎでしたか?と小さく付け加えていらした健二(けんじ)さんに、胸の奥がズキン、としました。

 健二さんに噛み砕いて説明していただくまでもなく、そうなのだと分かります。

 いくら鈍い私でも……あの時、どうしてもう少し修太郎(しゅうたろう)さんに説明を求めなかったのかと考えると、自分で自分が嫌になりました。
 相談してもらえなかったことを悲しく思えなかったのが、不思議で堪りません。

 私、知らず知らずのうちにまた、他者に依存してしまっていたのでしょうか。