あなたに、キスのその先を。

「……(しゅう)……太郎(たろう)、さん」

 湯上りで、いつも外出時にはきっちりセットされた修太郎さんの髪の毛が、全体的にゆるりと乱れて下りていました。それだけでも、日頃と随分印象が違っていて、めちゃめちゃドキドキします。

(か、かっこいいですっ)

 黒いTシャツに同色のハーフパンツをお召しになられた修太郎さんは、眼鏡をかけていらっしゃいませんでした。

 これはあくまでも私の勝手な印象ですが、修太郎さん、きっと視力はそんなに悪くないんだと思います。眼鏡を外しておられるときも、目を(すが)めたりなさる様子を見たことがありませんし。

 私は眼鏡姿の修太郎さんも大好きですが、裸眼姿の彼を拝見した時の方が、静心(しずこころ)ない気分になってしまいます。

 幼い頃の記憶を刺激されるのもあると思います。でも、それにも増して、修太郎さんが眼鏡を外されると……私に……その……良からぬことをなさるイメージが染み付いてしまっていて――。

 私は作戦も忘れて、呆然と突っ立ったまま、しばしそんな彼に見入ってしまいました――。

「……? 日織(ひおり)さん、お着替えですか?」

 立ち尽くしたままの私の手元を見た修太郎さんがそう仰って、私はそのお声にハッとして我に返りました。