日織(ひおり)さん、怒ってしまわれましたか?」

 心配そうに修太郎(しゅうたろう)さんがそう問いかけていらっしゃるのへ、私は窓のほうを向いたまま「お、怒っては……いません」とお答えした。

 本当に怒ってはいないのです。ただ、恥ずかしくて修太郎さんの方を向けないだけで――。

 (ひざ)に載せた手で、スカートをギュッと握ってしまったのは……仕方ないですよね?

「では、照れていらっしゃる?」

 ズバリ心のうちを言い当てられてしまった私は、ぴくんっ、と肩を震わせてしまいました。うー。分かりやすく反応してしまう自分が、すごくすごく恥ずかしいですっ。

「……だって、修太郎さんが……いきなり……その、耳に……」

 言って、先ほどの感触と、耳元で聞こえたチュッと言う、濡れたリップ音を思い出した私は、より一層照れてしまう。

「僕もね、とてもドキドキしています。こうして日織さんと二人きりになるのは本当に久しぶりですし……」

 おっしゃってから、少し沈黙。

 私はその沈黙が気になって、恐る恐る修太郎さんの方を振り返りました。

 そうしたら、修太郎さんがじっと私の目を見つめておられて。眼鏡越しの真剣な眼差しに縫いとめられて、私は身動きできなくなってしまいました。

 きゃー、心臓が持ちそうにありませんっ。