八月上旬。季節はすっかり夏の様相で、私が四月に市役所(ここ)へ来てから、四ヵ月少し経ちました。

 修太郎(しゅうたろう)さんからプロポーズをしていただいたのが七月に入る直前の頃でしたので、左手の薬指に婚約指輪がある状態にも、大分慣れました。

日織(ひおり)さん、今週末、仕事が終わったら僕の家に泊まりにいらしてください」

 仕事が終わったらお食事でもどうですか?

 まるでそんなお誘いのような軽い雰囲気でさらりと告げられた修太郎さんのお言葉に、私は条件反射で「はい、喜んで」とお答えしてから、すぐにその内容に気が付いて「えっ、えっ?」とドギマギしてしまう。

「ん? 聞き取りづらかったですか? 外泊のお誘いです」

 修太郎さんが、屈託のない様子で、私が理解できるよう、先ほどの言葉を少し違うニュアンスに言い換えてくださる。

 告げていらっしゃる言葉の内容とは裏腹に、にっこりとさわやかに微笑まれてしまって、私はドキドキしているのが、逆におかしいことのように感じてしまいました。