あなたに、キスのその先を。

 自分自身、健二(けんじ)さんからの指令でここに働きにきてはみたものの、どうしてお父様(づて)でそんなことを仰るんだろう、と薄々思っていたから。
 直接顔も見にきたくない興味のない娘だから、何だかんだ理由を付けて断る口実を探しておられるんじゃないだろうか。

 考えてみれば、そもそも私だって健二さんに会う努力をしてこなかったのだから同罪だ。

(私みたいな世間知らずなお馬鹿さんをお嫁さんにもらうよう運命(さだめ)られてしまった健二さん、すっごくすっごくお気の毒なのですっ。申し訳なくて頭が上がらないのですっ)

 そう思って。

「……正直、私なんかをもらってくださるなんて……有り難いことだと思っています」

 うつむき加減でつぶやくように言ったら、途端、高橋(たかはし)さんがムッとした顔をなさった。