あなたに、キスのその先を。

 値札に四万円を越える金額が入っているのを見て尻込みする私を見て、修太郎さんがクスクス笑う。

「日織さん、金額を気にしてはダメです。貴女が気に入ってくださらないと意味がありません」

 言われて、「でも……」と口ごもる。

「あの、修太郎さん。私、やっぱり指輪は……。それよりも……イヤリングじゃ、ダメですか?」

 ()えて上目遣いで修太郎さんを見上げると、私は彼の眼鏡越しの瞳をじっと見つめた。ちょっぴりズルいけれど、こうすると修太郎さんが大抵のことは折れてくださるのを、私は彼と過ごすうちに覚えました。

「どうしても?」

 イヤリングなら、さっき、オープンハートに桜があしらわれた可愛いのを、あちらのコーナーで見つけています。お値段も五千円しませんでしたし、絶対あれがいいと思うのです。

 修太郎さんの問いかけに、もう一押しだと思った私は、声には出さずにコクンと首肯(しゅこう)して、彼の服をちょん、と引っ張った。

「どうしても、です。……実はさっき、あちらで凄く気に入ったのを見つけたんです。それが……いいです」

 私の左手薬指に指輪を()めるのが今日の目的だと修太郎さんはおっしゃいました。

 なのに、リングではなくイヤリングがいいですとごねる私を、彼は許してくださるでしょうか。これは、ある種の賭けなのです。