あなたに、キスのその先を。

「そんな可愛い泣き顔、誰にも見せるわけにはいきませんから」

 私をお姫様抱っこして、私だけに聞こえる小声でそうおっしゃると、修太郎(しゅうたろう)さんはそのままスタスタと歩き出される。

「ギュッと捕まっていてくださいね」

 言って、(ふすま)に手を掛けるために私からほんの一瞬片手が離されて……私は落ちないように必死で彼にしがみついた。

 (ふすま)を抜けて私を外に連れ出しながら、修太郎さんが室内に向かって再度声をおかけになられた。

「――では、失礼します」

 私も、修太郎さんの服と、彼の肩に(はば)まれて見えているかどうかはわからないけれど、その声に合わせて小さく会釈をする。

「あ、あの……修太郎さん、どちらへ?」

 色々ありすぎて、涙はいつの間にか止まってしまっていた。

「私、もう泣いてませんので、その……皆さんのところへ戻っても……」

 大丈夫です、と言おうとしたら「嫌です」と言われて、意味をはかりかねた私はキョトンとしてしまう。

「せっかく晴れて親公認の仲になれたというのに……貴女を手放すなんて絶対に嫌です。お願いだから、もう少しこのままで。――ね?」

 まるで駄々っ子のようにそうおっしゃる修太郎さんが愛しくて、私は思わずクスリ、と笑ってしまう。