あなたに、キスのその先を。

「はい。知っていました。実際とても分かりやすかったので。……だから俺は」

「お兄さんのために一肌脱いでくれたんだね」

 市役所へ私を引き入れてくださったこと、修太郎(しゅうたろう)さんのそばに私を置いてくださったこと、そういう諸々(もろもろ)を指しての会話だと判ずる。

 修太郎さんからは叱られてしまったあれこれだけれども、お父様は少し違う意見をお持ちのようで。

健二(けんじ)くん。キミはうちの娘との縁談をただ白紙に戻すだけでも良かっただろうに。色々と手を尽くしてくれて、本当にありがとう。娘が今幸せなのは健二くんのお陰だと、私は思っているよ」

 天馬(てんま)氏にとってはちっとも面白くない、許婚(いいなずけ)入れ替わり問題だけれども、うちの父にとってはみんなが幸せになれたこと、もっというと私が幸せになれたことこそが、最も大切なことだとおっしゃって。

「私とお父上を(てのひら)で転がして自分の目的を遂行(すいこう)するとは。さすが神崎(かんざき)さんの跡目(あとめ)だ。なかなかどうして、健二くんは立派な策士(さくし)じゃないですか。――神崎さんもそう思われるでしょう?」

 お父様がそう言ってご自身の方へ微笑みかけていらしたから、天馬氏はうなずくしかなかったんだと思います。