あなたに、キスのその先を。

許婚(いいなずけ)なんて名ばかりのもので、僕の大事な日織(ひおり)さんを縛らないでいただけますか?」

 泣きそうな私を(かば)うように、修太郎(しゅうたろう)さんがそう言ってくださって、私は胸の奥がギュッとなるくらい嬉しくなった。“僕の”と言って頂けたことが何よりも嬉しくて。

 手を握って頂くことは叶わないけれど、修太郎さんの優しさに守られている、と確かに実感できた瞬間で。

 そんな修太郎さんに、天馬(てんま)氏があからさまに不機嫌そうなお顔をなさる。けれど、私はさっきほど彼のことを怖いとは思わなかった。

健二(けんじ)はそれで構わないのか? コケにされておるとか、そんな風には思わないのか?」

 そもそも兄と許婚(いいなずけ)にこんなことをされて、何故お前はそんなに平然としていられるんだ!?と怒りの矛先(ほこさき)を健二さんに向けられた天馬氏に、今度は健二さんがはっきりとお応えになられる。