「ああ、それは左上をこういう風に……」

 私が差し出した資料を見て、わざわざ一部見本を作ってくださった高橋(たかはし)さんに、私は彼の人となりを垣間見(かいまみ)た気がして、思わず微笑んだ。

「えっ? 何?」

 いきなりクスッと笑った私に、高橋さんが戸惑った顔をなさるから、「高橋さんって弟さんか妹さんがいらっしゃるんじゃありませんか?」と聞いてみる。

「……ああ、妹が二人いるけど……。って、え!? 何で分かるのっ?」

 藤原(ふじわら)さん、エスパーか何か?としきりに驚く姿がまたおかしくて。

「だって……物凄く面倒見(めんどうみ)がいいんですもの。私、高橋さんみたいなお兄様が欲しかったのです」

 一人っ子の私は、兄弟姉妹という関係に物凄くあこがれてしまう。

 何の気なしにそう言ったら、「姉になりたいって話なら大歓迎なんだけど……妹は間に合ってるかなぁ」と笑顔で返された。

(そりゃ、そうですよね。妹さん、二人もいらっしゃるんですものっ。私は高橋さんより年下ですし、逆立ちしたってお姉さんにはなれないのです。――あーん、それって何だか……)

「とってもとっても残念なのですっ」

 にっこり笑ってそう返すと、高橋さんが何でもないことのように「ところで」と話題をふってくる。

「?」
 視線でその問いかけを受けると、高橋さんが気持ち私の方に身を寄せるようにしてささやいていらした。