あなたに、キスのその先を。

健二(けんじ)さんと佳穂(かほ)さんが仲良く連れ立って去っていかれたのを見送って……本当にお二人は付き合っていらっしゃるんだなぁって実感したんです。それで……私も。――私も、これからはもう、修太郎(しゅうたろう)さんのことをお慕《した》いするたびに健二さんに罪悪感を抱かなくてもいいんだって思ったら……」

 何故だか分からないけれど感極(かんきわ)まってしまいました、と小声で付け加えると、修太郎さんがもう一度優しく抱きしめてくださった。

日織(ひおり)さんは、僕が思っているよりもずっと……許婚(いいなずけ)のことで苦しんでいらしたんですね。僕は自分の欲望ばかりで、佳穂に対する罪悪感など微塵も持ち合わせていなかったから、貴女の気持ちに気づいて差し上げられませんでした。すみません」

 言って、頭を下げていらして。

 ある意味、私も修太郎さんのように真っ直ぐ彼だけを想えていたならば……もっと違ったのかもしれない。
 でも、そうじゃなかったから今がある気もして。

 私はそこでふと、修太郎さんに惹かれつつも諦めようとしたことがあったのを思い出した。