あなたに、キスのその先を。

神崎(かんざき)から籍を抜いた後も、僕は健二(けんじ)や……その後に生まれた妹ら二人と縁を断つつもりはなくて……。(あの男)が、忙しさにかまけて子供(かれ)らを構ってやれないだろうことは自分の経験から知っていましたから、むしろ積極的に関わったぐらいです。あの日、日織(ひおり)さんのお宅へうかがったのも、健二がついてきて欲しいとごねたからでした」

(あの男)も、お前が一緒の方が健二も落ち着くから先方さんへ御迷惑をおかけしなくていいだろう、と言ったので」と吐き捨てるようにつぶやかれると、
「でも、あの日健二に誘われて藤原さんのお宅を訪れたのは正解でした」

 そこで私の手をぎゅっと握って嬉しそうに微笑まれた。
「――貴女に会えたのですから」

 幼い私を見たとき、妹さんたちには感じなかった感情が芽生えて驚いたのだ、と修太郎さんはおっしゃった。

「実は日織さんと一番下の妹は同い年なんです」

 健二さんのすぐ下の百合子(ゆりこ)さんは私より二つ年上、私と同い年だという妹さんは籐子(とうこ)さんとおっしゃるらしい。

「妹のことは異母兄妹(きょうだい)でも、妹ととしか思ったことはなかったのに、何故か貴女のことは初めてお会いした瞬間から“女の子”だと思ってしまった。――本当に不思議です」

 私も、お顔もお名前もすっかり忘れてしまっていたけれど、本を読み聞かせてくださった修太郎さんのお声が優しくて心地良かったこと、話してくださる物語がとても楽しかったことは消えずに覚えていられた。
 恐らく私にとっても、たった数時間にしか満たなかったあの時間は特別だったに違いない。

「私が……本好きで、空想好きな女の子に育ったのは、しゅーおにいちゃんの……修太郎さんの影響です」

 時々妄想の世界に旅立ってしまう私を作ったのは、アナタです。責任とってくださいね、と付け加えたら、修太郎さんが大きく瞳を見開かれて――。

(私、いけないこと、言ったかな?)

 修太郎さんの困ったような戸惑っているようなその表情に、私は思わず息を呑んだ。