「い、いえっ、違う方なのです。……塚田(つかだ)さんは……違います……」

 言葉にして言うと、胸の奥がズキン……と痛んだ。それで、後半声が小さくなってしまった。

「ふ~ん。許婚(いいなずけ)がいるからって結婚してるわけじゃなし、怪しいものね。でも、一応忠告しといてあげる。彼、決められた女性(ひと)がいるとかで、誰にもなびかないから」

 あなた同様、婚約者の方でもいらっしゃるんじゃない?とおっしゃる中本さんに、教えてくれなくてもよかったのに……と思いながら、でもこれで気持ちを吹っ切れるかな、とも考えた。

「そう、なんですね……」

 考えはしたものの、やっぱり悲しくて……。思わず落ち込んだ声になってしまったのを、中本さんに目ざとく嗅ぎ分けられて再度(にら)まれる。

「そもそも貴女みたいに若い子より、ある程度は成熟した大人の女性のほうが塚田さんとは釣り合うはずよ? ――私みたいに」

(そんなの、言われなくても分かっているのですっ)

 勝ち誇ったように胸を張る中本さんから、私はそっと視線をそらした。そうして一度だけ深呼吸をすると、頑張って気持ちを切り替える。