あなたに、キスのその先を。

　中本さんは更衣室に入るなりすぐ、こちらを振り返って「どういうつもり？」と聞いてきた。

　意味が分からなくてきょとんとすると、「貴女、塚田(つかだ)さんのこと、狙ってるでしょう？」と睨まれる。

「え……？」
　彼女が言っている言葉の意味が理解できなくて、一瞬固まってしまう。
　でも、すぐに私が塚田さんに対して抱いている気持ちを見抜かれてしまったのだと思い至ってハッとする。

　こういうことにうとい私だって、中本さんの恋心に気付けたのだ。彼女が私のそれに気付いたとしても不思議ではない。

　でも、ここでそれを認めるわけにはいかない。

「あの、私には……許婚(いいなずけ)がいるのですっ」

「それが塚田さんだとでも？」

　言うが早いか、中本さんに物凄い勢いで詰め寄られる。