健二(けんじ)さんが予約なさっていらしたのは、ホテルの最上階に位置する「Le ciel(ラ・シエル)」という名前のフレンチレストランだった。

 最上階――十五階――にあるからか、「空」という意味なのだとエレベーター内で修太郎(しゅうたろう)さんが教えてくださる。何でも、レストラン自体が円形の展望台のようになっていて、レストランのフロアがゆっくりと回転しているらしい。

 食事をしている間に、パノラマビューになっている外の景色がじわじわと移り変わっていくと言う趣向に、私は驚いて目を(しばたた)いた。

 そういう構造のレストランを、回転レストランというのだとか。

 ここへ着いて、下からホテルを見上げたとき、最上部に円盤のようなものが乗っかっているように見えたのを思い出す。

 どうやら目指す「Le ciel(ラ・シエル)」はそこにあるようだった。


「修太郎さん、よくご存知ですね」

 小声でそう言ったら「以前一度来たことがあるので」とおっしゃって。

 私はそれをお聞きした途端、胸の奥がズキンと痛んだ。

 どなたといらしたんですか?と聞きたくてたまらないのに、それが言えなくて「そうなんですね」とだけ、うつむきがちに返す。

 狭いカゴ室の中。小声とはいえ、私たちの会話は聞こえていらっしゃるだろうに、健二さんは何もおっしゃらなくて。それが逆に気を遣われているようで悲しくなる。

 きっと、きちんと向き合って尋ねれば、修太郎さんは私の疑問に色々答えてくださるはずなのに。

 私は、その勇気が出せなくて黙り込む。